米国養鶏業界におけるアニマルウェルフェアの現状


はじめに 2013 年 6 月に、米国連邦法に追加されなかったエッグビル(エンリッチでない採卵ケー ジ飼養禁止法)の影響を主に調べるために、筆者は米国動物愛護協会(HSUS)と採卵生産 者協会(UEP)訪問、スーパー市場調査等を行った。その時の内容を報告する。 (1)米国ブロイラー業界におけるアニマルウェルフェアの現状 米国量販店での鶏肉表示 今回、2013 年 6 月 27 日に、アトランタ近郊にある米国最大手量販店「ウォルマート」 と自然食品・オーガニック専門店「ホールフーズ」に行き、調べた鶏肉表示と価格を紹介 する。

ウォルマート店では、主に、タイソンのムネ鶏肉が$1.06/100g で人工的原料無添加 (No Artificially Ingredients)・手でスライス(Manually Processed)と表示されたパック で、ハーベストランドのムネ鶏肉が$1.21/100g で「抗生物質無投与飼育・動物性タンパク 質無投与・人道的飼育(Humanely Raised)、ケージフリー飼育(Raised Cage Free)と表 示されたパックで、販売されていた。両者の違いは飼育方法が表示されているか否かであ る。大手であるタイソン社鶏肉の飼育方法は無表示であるが、一方、ハーベストランド鶏 肉には飼育方法が表示されている。

一方、自然食品店のホールフーズの店舗では、鶏肉は 5 段階のアニマルウェルフェア基準(写真 1)で飼育ランク付けされていた。第 1 段階でケー ジ不使用と薄い飼育密度飼育、第 2 段階でエンリッチな環境で飼育、第 3 段でエンリッチ な野外アクセスで飼育、第 4 段階でフリーレンジ飼育、第 5 段階で丁寧な取扱とフリーレ ンジ飼育が、主な段階別飼育基準として求められる。量販店として初めて、ホールフーズ のみが肉用鶏・豚・肉用牛・七面鳥にアニマルウェルフェア自主基準を運用している。ア ニマルウェルフェア段階 2 の表示シール「エンリッチな環境」の鶏肉のみが販売されていた。

表 1 はホールフーズのアニマルウェルフェア基準である。 過去に飼料と抗生物質関係の表示はあったが、消費者に飼育方法関係の表示は現在の傾 向となっている。ウォルマート・アトランタ近郊店で、タイソン鶏肉の横に別会社の鶏肉 ケージフリー飼育と表示された鶏肉が売られていたのには、筆者は大変に驚いた。また、 ホールフーズのアニマルウェルフェア自社基準は米国の他の量販店に影響を与えるように思われる。

 

例えば、EU は Commission Regulation(EC)No.949/2006 規則によって、輸入国に対して冷凍脱骨鶏肉の 塩漬けを義務付けており、関税がかけることで国産品と競合しないように取り決めている。 同様に、TPP 加盟国のカナダでも、国産の採卵・ブロイラー・乳牛・七面鳥は非常に高い 関税を設けている。事実として、EU 諸国とカナダでは国産鶏肉は関税で守られているので ある。 国内養豚と採卵業界にもあるように、国産ブロイラー業界にも、自由民主党 国産食鳥 産業議員連盟(会長:大島理森、前自民党副総裁、元農林水産大臣)が 2013 年 8 月に設立 されると聞いている。第三者監査 写真 1:アニマルウェルフェア基準の第 2 段階シールと鶏肉売り場の看板(2013 年 6 月 26 日ホールフーズアトランタ近郊店) 米国ブロイラー生産状況および食鳥処理場の運営について現状調査計画 日本国内では二十年以上前に米国を参考に作成された食鳥検査制度は、その後において 改訂されていない。そこで、国産食鳥産業が TPP 対応と検査制度見直しに必要な施策を取 ることが必要である。2013 年秋に、筆者は業界関係者と米国家禽評議会(NCC=National Chicken Council))・米国農務省(USDA=US Department of Agriculture)・ブロイラーイ ンテ企業訪問と量販店市場調査を計画している。アニマルウェルフェアの側面から米国に おけるブロイラー生産状況および食鳥処理場の運営について現状調査を行なって、2014 年 1 月の新春号で結果報告を出来ればと思っている。 議員連盟 話は変わるが、EU とカナダは輸入鶏肉に高い関税を課している。

今後とも我が国の食鳥産業が維持・発展できるよう、議員連盟の先 生方に国産鶏肉が生き残れるような施策を期待したい。 (2)米国採卵業界におけるアニマルウェルフェアの現状 HSUS 訪問 2013 年 6 月 25 日に筆者は(有)北海道種鶏農場の川上社長と、「エンリッチでない採 卵ケージ飼養禁止連邦法」(エッグビル)の連邦法の動きを知るために HSUS 本部を訪問し、 サラ・シールド博士とチェタナ・ミル博士(写真 2)から話しを聞いた。

1,100 万人から寄 附を受ける HSUS の職員数は、米国で 550 名と海外で 50 名を有する代表的な動物愛護団 体である。過去 2 年間取り組んできたエッグビルは農業法(ファームビル)(結果的に否決) に取り入れられなかった訳であるが、座談会を持った会議室の壁には多くの国会議員の写 真が貼られていて、エッグビル法制化の厳しいやり取りが想像できた。 団体は、家畜分野では採卵鶏・豚・ブロイラー・肉用牛の順に、動物福祉に力を入れて きたようである。現在の HSUS 優先順位は妊娠豚用ストール飼育禁止キャンペーンとして いる。2012 年に、マクドナルドは米国でストール飼育豚を使わないように決めている。過 去に採卵鶏への取り組み経過と題した資料(下記)を我々に渡してくれて、シールド博士 は次のように語った。

「2005 年から HSUS は従来型ケージ使用禁止のキャンペーン投資を 始めて、UEP と妥協案としてエンリッチでないケージ使用禁止から成るエッグビル連邦法 成立に取り組んできた。その結果、ケージフリー採卵鶏飼育の卵市場占有率は過去一年間 に 50%増で 5%から 8%に増加している。しかし、米国 2.8 億の採卵鶏の 2 割弱は UEP の アニマルウェルフェア基準以下で飼育されている。一方、ブロイラーの福祉については、 農場でのキャッチングと処理場でのスタニングに強い関心を持っている」 ミル博士から 聞いた HSUS の国際的なキャンペーンの話の中で、興味深かったのはアジアでもケージ禁 止国があることである。2012 年にブータンは採卵ケージ飼育を禁止した。

写真 2:左から HSUS 本部のチェタナ・ミレ博士、アダム・レイマン氏、サラ・シールド博士、 筆者、川上社長(2013 年 6 月 26 日)

HSUS の採卵鶏への取り組み経過 HSUS は 2005 年 1 月よりケージフリー卵のキャンペーンを開始した。HSUS から頂い た下記の資料は、ケージフリー生産システムから生産される食用卵へ切り替える食品企業 と外食企業等の経過一覧表である。

2013 年 1 月:喫茶店チェーンのエウボン・ペイン(Au Bon Pain)は 2017 年にケージフ リー100%卵を目指す。 マリエットホテル(Marriott International)は 2015 年までに納品業者にケ ージフリー生産システムからの卵と卵製品に切り替えるように要求すると 発表する。
2012 年 9 月:ダンキングドーナッツ(Dunkin’ Donuts)は 5%のケージフリー卵に切り替 えると発表する。
2012 年 8 月:世界で 2 番目の大手食品サービス会社であるソデックス社(Sodexo)は、全 ての 3,900 万個の殻付き卵をケージフリーに切り替える。
2012 年 6 月:ハイヤットホテル(Hyatt Hotel)は全てケージフリー卵に切り替える。
2012 年 4 月:バーガーキング(Burger King)は全てケージフリー卵に切り替えると発表 する。
2012 年 2 月:ボン・アペティ・マネジメント(Bon Appetit Management Company)は 全てケージフリー卵に切り替える最初の主な食品サ―ビス供給企業となる。
2011 年 7 月:コナグラフーズ(ConAgra Foods)は 100 万個の卵をケージフリーに切り替 える。
2011 年 4 月:食品製造大手のゲネラル・ミル社(General Mills)は 100 万個の卵をケージ フリーに切り替えると発表する。
2011 年 2 月:米国で 700 店舗を持つワタバーガー(Whataburger)はケージフリー卵を使 い始める。
2011 年 1 月:バリラ(Barilla)はケージフリー卵を使い始めた最初のパスタ製造業者にな る。
2010 年 11 月:米国で最大手の食品製造業者のクラフト(Kraft Foods)は 200 万個の卵を ケージフリーに切り替える。
2010 年 10 月:バージン・アメリカ(Virgin America)はケージフリー卵に切り替える最 初の航空会社となる。
2010 年 9 月:クッキー製造業者のオチス・スパンクメイヤー(Otis Spunkmeyer)はケ ージフリー卵に移行を決める。
2010 年 8 月:ロイヤル・カリベアン・カーニバル(Royal Caribbean and Carnival)はケ ージフリー卵に切り替える最初の船舶企業である。
2010 年 7 月:カリフォルニア州は 2015 年までに州で売られる全ての卵はケージフリーと する州法を制定する。
2010 年 6 月:HSUS はオハイオ州知事と、新しいケージ農場の建設を禁止する包括的な動 物福祉契約を締結する。
2010 年 5 月:サラ・リー(Sara Lee)は 100 万個の卵をケージフリーに切り替えると発表 する。
2010 年 3 月:パンケーキ等のレストランのアイエイチオピー(IHOP)は何百万個の卵を ケージフリーに切り替え始めると発表する。
2010 年 3 月:世界で他のどのレストランより添付を持つサブウェイ(Subway)は 100% ケージフリー卵に切り替えると発表する最初に主なレストラン・ショップと なる。
2010 年 2 月:ヘルマン(Hellmann)はマヨネーズに 100%ケージフリー卵を切り替えると 発表する。
2010 年 1 月:3,500 店舗のレストランを持つソニック(Sonic)はケージフリー卵を使い始 めると発表する。
2010 年 1 月:ワルマート(Wal-Mart)は全てのプライベート・ブランド卵を 100%ケージ フリーと発表する。
2009 年 10 月:ミシガン州は 2019 年までに州内でケージ飼育を禁止する州法を可決する。
2009 年 6 月:ハンバーガー店舗を経営するレッド・ロビン(Red Robin)は全ての卵をケ ージフリーに切り替えるとする。
2009 年 5 月:ウエンディ(Wendy)は幾らかのケージフリー卵を使いはじめる。
2008 年 11 月:カリフォルニア州の三分の二の住民は州内で 2014 年までにレイヤーの従来 型ケージ飼育を禁止する「家畜虐待防止州法」を住民投票で可決した。
2008 年 2 月:朝食レストランの大手デニーズ(Denny’s)は幾つかケージフリー卵を使い 始める。
2008 年 2 月:スーパーマーケットのセイフウェイ(Safeway)は販売するフリケージ卵の 数を率先して増やし始める。
2007 年 12 月:世界最大の食品サービス供給者のコンパスグループ(Compass Group)は 事業で全てケージフリー卵を使うことにする。
2007 年 3 月:大手ファストフードのバーガーキング(Burger King)はケージフリー卵に 切り替え始める最初の主なレストランとなる。
2007 年 3 月:有名シュフのウッルフギャング・パック(Wolfgang Puck)は彼の全てのレ ストランでケージフリー卵に切り替える。 2006 年 9 月:アイスクリーム店のベンとジェリー(Ben & jerry’s)はケージ卵の使用を止 め始める。
2005 年 11 月:オーガニック・スーパーマーケットのトレイダー・ジョー(Trader Joe’s) はブランド卵をケージフリーとすると発表する。
2005 年 10 月:ボン・アペチット・マネーメント(Bon Appetit Management Company) は 400 店のコーヒーショップでケージ飼育卵の使用を禁止すると発表する。
2005 年 5 月:ホールフーズ(Whole Foods Market)とワイルド・オウツ(Wild Oats Natural Marketplace)はケージ飼育卵の販売を中止すると発表する。
2005 年 1 月:HSUS はケージフリー(ケージ飼育されない)卵のキャンペーン始まる。

 

第 2 回 UEP 訪問 2013 年 6 月 26 日に UEP のチャッド・グレゴリーCEO(写真 3)(前ジーン・グレゴリ ーCEO の息子さん)を(有)北海道種鶏農場の川上社長と筆者は訪問して、エッグビルの 連邦法は可決されるのか否決されるのかについて話しを聞いた。一番印象に残ったグレゴ リーCEO の言葉は、約 3 時間の意見交換が終わる頃に聞いた質問「連邦法成立の可能性は 何%ですか」に対しての返答「2 週間前の連邦法成立可能性は 70%から 75%であったが、 今は 1%から 2%になっている」である。

つまり、エッグビルの成立可能性は無くなった と CEO は言ったのである。 ルール委員会でエッグビルは、5 年に一度改訂されるファームビルに追加されなかったの である。その理由は、全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)と全米豚肉生産者協会(NPPC) が、家畜福祉の考えを取り入れたエッグビルが養豚と肉用牛にも広がることを懸念して、 成立阻止に向けてロビー活動を行い有望視されていたエッグビルを不成立に追い込んだた めである。

UEP のグレゴリーCEO はこの反対理由を次のように語ってくれた。(1)米国で 農家数において、養豚農家数は 65,000 戸と牛農家数は 100,000 戸と比較して、採卵農家数 は 200 戸と少ない。(2)衛生問題で、乳牛の尻尾は搾乳時に切られるが、酪農家は牛の尻尾 切りが禁止になるのではと心配する。(3)養豚農家は妊娠豚用ストール飼育の禁止を心配す る。(すでに、2013 年 1 月より EU では妊娠豚用ストール飼育は禁止されている) エッグビルが成立しない場合に、米国の採卵業界はどうなるのだろうか。意見交換の最 初に、チャッド CEO はエッグビル成立理由を一枚の写真(写真 4)で説明してくれた。写 真の下に書かれている文章を翻訳すると、「この写真はなぜエッグビルが可決される必要があるかを良く総括している。

これは 3 年前に建設された大規模採卵農場である。場所はオ ハイオ州に接するインデイアナ州にある。農場経営者はオハイオ州の人である。住民投票 制を持たないインデイアナ州が選ばれた。これが、我々(UEP)が採卵鶏舎基準の連邦法 を持つ理由である」 補足説明をすると、50 州からなる米国では,24 州の住民が住民投票 で州法を可決することが出来る。 24 州の中で、カルフォルニア、ワシントン、オレゴン、 ミシガン、オハイオの各州は、すでに住民投票でエンリッチでないケージ禁止州法を可決 している。

インデアナ州は住民投票制度を持たない 26 州の一つの州である。エンリッチで ないケージ禁止州法を持つ各州では、採卵経営者は他の州で採卵農場を建設し、他の州で 従業員を雇用し、他の州で卵を生産・販売し、他の州で税金を支払う方向になる。これは 警告の意味でもある。近い将来、19 州(24-5)も、5 州と同様な州法を住民投票で可決す るかも知れない。その場合に、採卵生産者と量販店は全て異なる州法に基づいて生産され る卵をどのように対応していくのであろうか。

米国採卵業界は混乱が続くことになるだろ う。 米国量販店での卵表示 2013 年 6 月 27 日に、アトランタ近郊にある米国最大手量販店「ウォルマート」に行き、 陳列されている卵の表示と価格を調べた。約 5%の卵は「ケージフリー」の表示で卵が陳列 棚に並べられていた。オーガニック卵($約 4.5/12 個)、ケージフリー卵(約$3.0/12 個)、 オメガ 3 卵(約$3.0/12 個)、ケージ卵(約$1.5~2.0/12 個)の 4 つに大別した商品表示が見 られたが、エンリッチドケージ表示は見られなかった。同日に、自然食品とオーガニック 食品専門店のホールフーズでは、ケージフリー卵とオーガニック卵が陳列されていた。

卵 が高く販売出来るという意味で、商品の差別化はエンリッチドケージ卵では難しいのでは と思った。消費者にとって、エンリッチドケージ卵もまたケージ卵であるからである。 もしエンリッチドケージを盛り込んだ連邦法のエッグビルが可決されていたら、新しい 分類の卵「エンリッチド卵?」が先取りする養鶏生産者と量販店により販売されていたか も知れない。エンリッチドケージ(改良型ケージ)は、ケージの中に止まり木、巣箱、砂 浴び場を設置し、ケージ全体の床面積自体も大きくしたもので、従来のバタリーケージよ りもアニマルウェルフェアに配慮した飼養システムといわれている。

米国採卵業界の短期方向性 このように、エンリッチドでないケージを禁止するエッグビルが連邦法として制定され なかったので、米国採卵養鶏企業は短期的に「エンリッチャブル・ケージ」の新設を進め ていくことになろう。これは従来型ケージと同様であるが、必要によりエンリッチドケー ジに転換できる構造にしている。または、写真 4 のような住民投票のない州で、従来型ケ ージを UEP 基準で建設を進めていく道もある。

いずれにしても、ケージフリー卵市場占有 率が 2011 年に 5%から 2012 年に 8%と倍増しているので、採卵企業は消費者のケージフリ ー卵選択の伸びを注視していく必要があるように思われる。 写真 3:UEP 本部のチャッド・グレゴリーCEO(右)(2013 年 6 月 26 日) 写真 4:オハイオ州に接するインデアナ州にある採卵農場 まとめ 米国では、鶏肉において消費者にアニマルウェルフェアが認知され始めているが、先を 行く採卵においてケージフリー卵は市民権を持ちつつあるように感じた。 アニマルウェルフェアの側面から米国におけるブロイラー生産状況および食鳥処理場の 運営について、本誌の新春号(2014 年 1 月)で現状調査報告を出来ればと思っている。